オリジナル

Lassさんからの贈り物です。
オリジナルを・・・・とお願いしたら、こんなにスバラなイラストを送ってくださいました。
ご本人はなんだか謙遜されてますが、きっといっぱい時間がかかっただろうなと思います、これ。
飛行機雲がツボです。


   ++++++ Lassさんのコメント

最初に考えてたのは、もっとこう・・・果てしなく道が続いていて、
空がどこまでも高くって・・・・・・
車もコレじゃなきゃ!って思って、フィアット8の写真を探しまくって。
でもなかなか無いもんですねー、イメージに合う写真が。
だから、とっても小さく誤魔化した(笑)
結局、これはなんでこんな草原に車で入り込んじゃったんだろう、この人たちは?
ってな感じですぅ。

   ++++++ ショートストーリー(2編)

このイラストをイメージして書かれたお話を紹介します。
諸般の事情で当サイトで公開させていただくことになりました。


■「コイン」              by くまくま

勢いよくコインが弧をかく。
光を反射して、きらりと光る。
細い手がそれを捕まえる。

「ウラ。」
「オモテ。」

そっと、指をずらしていく。
ああ、
「よっし!私の勝ちだあ!」
勝ち誇った彼女は車のキーをさっと掴んで笑った。
仕方ない。
寒いし本当は今日は家に居たかったけど、賭けは賭けだ。
コタツから出て参考書を閉じる。
このルールは、昔から僕達の間で流行っているものだった。
そして僕はいつでもこの手で負ける。
僕もトウコもそれを知っている。

「どこに行く?」
コートを羽織って外に出ると、雪が降り出してふるりと身体が震えた。
もう夕闇が影を作る時間だ。
母親に夕食は要らないと言って玄関を後にする。
「そうだね。タツキはどこがいい?」
彼女は髪をマフラーから引っ張り出す。
白い息が薄暗い空気に溶ける。
「とりあえず乗って。」
ドアを開けるとトウコが運転席を選んだ。
「疲れてるもんね。私が運転するからさ」
「…ん。任せた。」
助手席にずずず、と身を沈める僕は、大人しく従う。
一つ年上のトウコは、去年ようやく取ったばかりの僕より余程上手いから。
…少し眠い。

「どこに宝物埋めたんだっけ?」
車を降りるとびゅうびゅうと風が吹く。
足元が埋まってしまうから、適当に踏み固める。
さみい、と言う彼女にマフラーを手渡して二重巻きにしてやった。
トウコの目が笑う。
宝物?
「何だっけ」
言うと、あ。忘れてるよ。と腹を叩かれた。
全く、昔からこういうのは変わっていないのが可笑しい。
笑ってふと目を上げると、見渡す限り白い世界が目に入る。
正確には、青い。
夕闇と夜の間の世界。
上半分が濃い蒼色で、下半分は薄い蒼色。
空と地の二つだけ。
道も無いのにトウコが無理に車で進入した野原は、どこまでも続くようだ。
影絵が揺れてる。
遠くに木々が風を遮る為に植えられて、黒い影絵を作るのが昔から好きだった。
低い気温。
吐息の色。
子供の時から慣れている色彩。
ここには草が有った事など無いとでも言いたげな景色だ。

「…あ、思い出した」
そうだ。夏にもここに来た。
でしょ?と笑うトウコの笑顔もオーバーする。
あの時の暖かい風と、少しぬるくなったジュースの味。
トウコが自分家の冷蔵庫から持ち出したから。
一気に戻ってくる。
空の色も草の匂いも土の感触も。
「どこだっけねえ」
ポケットに手を突っ込んで、ざくざくと周りの雪を踏み固めてみる。
この下のどこかに、穴を掘って埋めたんだった。
「目印したんだった?」
「忘れたなあ」
寒いのに楽しそうに応えるトウコは、笑う。
その唇に、雪が降る。
ひとひら、ひとひら、唇に触れる。
その温かさにじわりと溶けて水になっていくのを見ていた。

宝物は何だった?
それが何でもどこに隠しても、春には見つける。
そこら中を掘り返して犬のようだと笑っても。

この距離が死ぬまで縮まらない事はよく知っている。
1年遅れて更に一つ離された。
トウコの通う門は、僕にはまだ近寄れない。
それでも、まだ寒い次の春には。
「来年な」
笑うと、トウコもにやりと笑い返した。

コインは裏か、表か?


■無題                     by NONNON

透けるような青空、一面の緑。

「ほらっ、次行くよ」
「…んだよ、もういくのか?」
「おなかすいたもん! さ、早く。」

彼は、軽く両足をはたいて立ちあがる。
先に動いた彼女の背中に声をかけた。

「何食べさせてくれんの? 寿司? それとも…」
「あまーーい、さっきの道んとこに『Lソン』あったでしょ。あそこでおべんとか
お。」
「えーーーっ、旅先でコンビニの弁当かよ〜〜。」
「文句言わないの、ガクセイの分際で。アタシのおごりよ。」
「……(小声で)上司と喧嘩して、会社サボったくせに…」
「…ンーー、何か言ったぁ?」
「はーい、おねーさま、只今参りますぅ〜。」

背まで伸びたブラウンの髪が、フワリとゆれる。

「あたしはね、あんたのねーちゃんじゃないの!」
「…じゃ、何なんだよ。」
「……言わせる気?」
彼女は下から少年を見上げた。

ふいに、彼の方からくちづける。

「!……」

「ねーちゃんとは、こんなことしないよな。」
笑いながら、走り去る彼、
しばし呆然として、後を追い掛ける彼女。

黄色のフィアットに、吸いこまれるように消えた二人。
そして、来た道をゆっくりと戻っていく。

見送るのは、緑と風。

(了)

2001/12/03